口横ドレープしわ
診断基準 第1版(2026)
日本ほうれい線・口横ドレープ研究会 | 公式発行
本研究会は、従来「ほうれい線」として一括して扱われてきた口元の皺構造を、原因・本数・動態の3軸から再分類し、独立した疾患概念として再定義することを目的としています。とくに、皮膚由来の複線性・静止性の皺構造を 「口横ドレープしわ(Perioral Drape)」 として新たに定義し、その診断・治療・予防に関する標準的指針を提示します。本文書は、その第1版(2026)として発行するものです。
本診断基準が定めるもの
本基準は、口元の皺構造を「線の深さ」という一次元評価から脱却させ、原因・本数・動態の3軸から多次元的に診断することを目的としています。
従来のスケール(WSRS、Merz Scale、Glogau分類など)は深さに基づく評価が中心であり、「同じ Grade 3 でも、ある症例ではヒアルロン酸が著効し、別の症例では悪化する」という臨床上の不一致を説明し得ませんでした。本基準はこの空白を埋め、診断から治療選択までを一意に導出することを目指します。
CHAPTER 02 | 3軸分類診断の核となる3つの軸
本基準は、すべての口元の皺構造を以下の3軸から評価します。
本数(N)
静止時に視認できる縦シワの本数。患者自身も鏡で数えられる、診断の入り口となる軸。
原因(O)
皺構造の発生機序。脂肪由来か、皮膚由来か、混合型か。治療選択を決定づける軸。
動態(D/S)
静止時と動作時の変化。動的か、静止時にも定着しているか。重症度と介入時期を示す軸。
軸① 本数(Number of Lines)
| 分類 | 名称 | 定義 |
|---|---|---|
| N1 | 単線型 | 主線1本のみ |
| N2 | 複線型 | 主線+口横の縦シワが並走 |
| N3 | 多線・ドレープ化型 | 複数の縦シワが束化し、布のひだ状を呈する |
軸② 原因(Origin)
| 分類 | 名称 | 定義 |
|---|---|---|
| O-F | 脂肪由来型 | 頬脂肪・メーラーファットの下垂・前方突出 |
| O-S | 皮膚由来型 | 皮膚の余剰・菲薄化・コラーゲン低下 |
| O-M | 混合型 | O-F と O-S の併存 |
軸③ 動態(Dynamic / Static)
| 分類 | 名称 | 定義 |
|---|---|---|
| D型 | 動的 | 笑顔または発音時のみ出現、静止時は消失 |
| S型 | 静的 | 無表情でも定着 |
| D→S型 | 移行期 | 時間帯・疲労・乾燥により揺らぐ |
本数(N)は患者自身がカウントできる診断の透明性を担保し、原因(O)は治療選択の根拠を提供し、動態(D/S)は重症度と介入時期を判定します。3軸を組み合わせることで、診断から治療方針までが一意に決定されます。
2つの動態テスト
本基準では、動態(軸③)を評価するために、以下の2つの臨床検査を採用します。両者は異なる筋肉動員を介して、異なる組織層の動態を露出させるため、必ず併用することを推奨します。
3-1. 笑顔テスト(Smile Test)
脂肪・構造の動態評価
大頬骨筋・頬筋系の協調動員により、頬部の挙上に伴う構造下垂・脂肪移動を可視化します。
自然な笑顔を5秒間保持
患者に自然な笑顔を作らせ、5秒間保持。頬部の動きと、その際に出現する皺構造を観察・記録します。
3-2. Minyoung E-Sign(通称:Eテスト)
本研究会が独自に提唱する、皮膚由来の皺構造を評価するための臨床検査です。「イー」の発音時に口輪筋および周囲筋が協調的に収縮し、頬皮膚が横方向にストレッチされながら口横で皮膚が押し出されることを利用します。これにより、皮膚余剰の有無と程度を肉眼的に顕在化させることが可能です。
静止時所見の記録
患者を正面視させ、無表情の状態で口横皮膚の所見(縦シワの有無・本数、皮膚の張り)を記録します。
「イー」発音・5秒保持
「イー」と発音させ、その状態を5秒間保持させます。口角は外側・上方へ強く牽引され、頬皮膚が伸展されます。
口横皮膚の変化を観察・撮影
静止時と比較し、口横に新たに出現した縦シワの本数、皮膚の重なり(ドレープ形成)の有無を観察・撮影します。
陽性度分類
| 段階 | 所見 | 臨床的意義 |
|---|---|---|
| E− | 口横の変化なし、または既存シワの軽度深化のみ | 皮膚余剰なし |
| E-1 | 新たな縦シワが1本以上出現、ドレープ形成なし | Hidden Drape(潜在性) |
| E-2 | 新たな縦シワが2本以上出現、静止時N分類が1段階以上進行 | Pre-Drape(前ドレープ期) |
| E-3 | 肉眼的に皮膚の重なり・ドレープ形成を確認 | 口横ドレープしわ確定所見 |
本検査は、論文・診断基準書・教科書・学術発表など正式な文脈においては Minyoung E-Sign(ミニョン・イーサイン)を用い、臨床現場・診察記録・SNS・患者向け説明など平易な文脈においては通称 Eテスト(E-Test) を用います。両者は同一の検査を指します。
口横ドレープしわ(Perioral Drape)
口横ドレープしわ(Perioral Drape)とは、本研究会の3軸分類において 「O-S / N2-N3 / S型」 に該当する皺構造を指す。
すなわち、皮膚由来(O-S) であり、複数本の縦シワ(N2以上) を呈し、静止時にも定着している(S型) 状態を満たすものをいう。
Minyoung E-Sign における E-2 以上の所見を伴うことが多い。
本定義は、医学的診断基準(diagnostic criteria)の体裁を満たしており、除外診断が成立する形式で記述されています。すなわち、N1のみの症例、O-Fのみの症例、D型のみの症例は、いずれも口横ドレープしわには該当しません。
CHAPTER 05 | 派生診断概念関連する3つの病態
口横ドレープしわの定義から論理的に導出される、3つの関連病態を本基準に併せて定義します。これらは早期介入・誤診回避の観点から、臨床上重要な鑑別カテゴリです。
Hidden Drape(潜在性ドレープ)
現時点で単線でも、皮膚余剰が顕在化しているケース。将来的な口横ドレープしわの予備軍であり、予防的な皮膚管理が推奨されるステージです。
Pre-Drape(前ドレープ期)
複線化が始まっており、静止時定着への移行段階にある状態。予防的介入による進行抑制効果が最も期待できる、介入の最適タイミングです。
Drape Mimicker(ドレープ類似病態)
一見ドレープしわに見えるが、本質的には脂肪由来。皮膚補充治療を行うとかえって悪化する可能性があるため、誤診を避けるべき重要な鑑別診断です。
3ステップによる統合判定
診察フローは、本数 → 原因 → 動態の順で進めることを推奨します。本数判定は患者にも見える透明な所見であり、診断の出発点として最も適しているためです。
静止時の本数を数える
無表情の状態で口横に視認できる縦シワをカウント。N1 / N2 / N3 のいずれかに分類します。
原因を判定する
視診・触診により脂肪下垂と皮膚状態を評価。O-F / O-S / O-M のいずれかに分類します。
動態テストを実施する
笑顔テスト(脂肪・構造の動態)と Minyoung E-Sign(皮膚の動態)を併用し、D型 / S型 / D→S型 および E− 〜 E-3 を判定します。
診察記録の標準的な記載例
本基準を採用するクリニック・医療機関は、以下の形式での記載を推奨します。3軸の分類コードを並列で記載することで、診療録の互換性と症例検討の透明性を確保します。
古典的ほうれい線、脂肪由来、動的。ヒアルロン酸の良い適応となる典型的症例。
前ドレープ期(Pre-Drape)。皮膚由来、静止時定着。ソフウェーブ+エラビエリトゥオーの併用療法を推奨。
重度の口横ドレープしわ、複合原因。ソフウェーブ+エラビエリトゥオー+構造アプローチの統合的介入を推奨。
本基準が定める3つの原則
本基準は、特定の治療法を商業的に推奨するものではなく、3軸分類から論理的に導かれる治療選択の原則を提示するものです。
- O-F優位の症例にはヒアルロン酸が有効である場合がある。 脂肪下垂による容積喪失が主因である場合、容積補充治療が機序的に合致するため。
- O-S優位の症例(口横ドレープしわ)にはヒアルロン酸を推奨しない。 余剰皮膚に容積を加えることで、ドレープ構造が悪化する可能性があるため。
- 口横ドレープしわの第一選択は、皮膚引き締め(ソフウェーブ等)+皮膚補充(エラビエリトゥオー等)の併用療法である。 皮膚余剰(N2-N3)と皮膚菲薄化(O-S)の双方に同時介入する機序が、定義上要求されるため。
本指針は「ヒアルロン酸を否定するもの」ではなく、「適応外症例への投与を避ける」ための分類学的根拠を提供するものです。3軸分類によって治療失敗症例を事後解説できることが、本基準の臨床的価値の中核です。
- 正式名称
- 日本ほうれい線・口横ドレープ研究会 診断基準
- 英文名称
- JAFPD Diagnostic Criteria for Perioral Drape
- 版
- 第1版(Edition 1.0)
- 発行日
- 2026年5月17日
- 発行団体
- 日本ほうれい線・口横ドレープ研究会(JAFPD)
- 引用形式
- JAFPD. 口横ドレープしわ診断基準 第1版. 2026.
本基準は研究会としての標準的指針を提示するものであり、特定の治療効果を保証するものではありません。適応・治療結果には個人差があり、すべての症例で同一の結果が得られるわけではありません。実際の診断・治療の選択は、診察を担当する医師の臨床判断に基づくものとし、本基準は意思決定の参考枠組みとして用いられます。
本基準についての関連リソース
用語集・症例アーカイブ・医師向け資料、
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本診断基準は、日本ほうれい線・口横ドレープ研究会が提示する臨床的指針であり、各医療機関における診断・治療を法的に拘束するものではありません。記載内容は2026年5月時点の研究会の知見に基づいており、今後の臨床知見の蓄積により改訂される予定です。本基準を引用される際は、版および発行年を明記してください。Minyoung E-Sign は本研究会が固有名詞として運用する臨床検査名です。
日本ほうれい線・口横ドレープ研究会 | JAFPD | perioraldrape.org
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